聞きなれない音で目が覚めた。
これは電話の音?
ここはどこ・・・そっか、実家か・・・そして電話・・・
今は何時なんだろう?
起きだしてみるとまだ朝の5時前。
こんな時間に電話が来るということは・・・
電話は、やはり病院からだった。
急いできてほしいという。
もしかしたら、もう数分ぐらいかもしませんという。
慌ててタクシーを呼び母親と病院に向かう。
病室に入ると先ほど説明してくれた医師が父親の口に呼吸器を当てている。
しかし、ベッドサイドに置かれた計器の数値は血圧も脈拍もすべてゼロだ。
そっか・・・・
「その呼吸器を外すとおしまいといことですね」
「そうです」
母親に確認をして言った。
「じゃあ、そうしてください」
医師は呼吸器を口から外し、ポケットから出したライトで瞳孔の確認をする。
「5時16分、ご臨終です」と言って頭を下げてくれた。
医師は家族が最後を見届けるための仕事をしてくれたのだろう。
小さな病院だけど、気持ちの伝わる仕事だった。
痩せ細った父親は安らかな表情をしている。
今から二年半前、父親は体調が思わしくないということから検査を受けた。
検査の結果、既に末期の癌だと判明。告知するスタンスで治療に入る。
東京の大病院で開腹してみたが、手のつけようがないという事実。
二種類の抗がん剤を試してみたが結局効果が無いという結果。
痛みを止めるだけの対応になったのが最近の事。
抗ガン剤が父親の身体を蝕んでいると感じていたので、痛み止めだけのほうがいいかもしれないと個人的には思っていた。
最後は思っていたよりも早くやってきてしまったのだな。
タバコを吸いに外に出た。
今日は寒い日だな。
しばらくして弟が到着。
葬儀の方法や葬儀社について話して、対応を始める。
父親が葬式は簡単にして欲しいと言っていた事から家族だけの簡単なものにすることにした。
というより、今の時点は混み合っているらしく会場の空きが無いらしい。
遺体は会社で預かるか、自宅に置いておくかのどちらかだという。
母親の疲労度から自宅は難しいと判断した。
葬儀社が来る直前に弟が嫁と姪っ子を連れてきた。
なんとか一族で病院からの見送りが出来た。
実家に戻り、葬儀社との打ち合わせを終えた頃、近くに住んでいる親戚が来てくれる。
元気づけるために来てくれたのはほんとに助かる。
しかし、ここらで体力の限界。
母親には早めに寝てもらい、親戚、そして弟と自分もとりあえず帰宅。
自宅に戻ったがまだ実感が無い。
二年半の間、いつこういう時が来てもおかしくないだろうと覚悟はしていた。